バイオリンは、1550年頃に北イタリアで誕生しました。世界で最初のバイオリンは残念ながら残っていません。しかし、当時の絵画にバイオリンが描かれていることから、そう推測されています。
歴史上、最初のバイオリン製作者は、アンドレア・アマティ(1505頃−1577)とガスパロ・ディ・ベルトロッティ(1540−1609)の二人とされています。彼らが製作したバイオリンは現在でも残っており、それによってバイオリンの歴史が、伝説から現実へと変わったのです。アンドレア・アマティの1565年頃の作品が、現存する最古のバイオリンです。
バイオリンは誕生したときからすでに、その先祖と考えられる擦弦楽器に比べても、極めて完成度の高い楽器でした。つまり、改良によって作り上げられたのではなく、突如、完全な楽器として誕生したのです。そして、18世紀前半頃、ストラディバリ(※)を頂点として、現在の形が完成したといわれています。
(※)イタリア北西部・クレモナのバイオリン製作に優れた有名な一族の名前、または一族による作品の総称。特に1700年頃からの作品は、美しい独特の音色を持ち、比類ない名器とされている。
クレモナは、北イタリア・ロンバルジア地方の小都市です。16世紀後半から18世紀前半にかけて、バイオリン製作のメッカとなり、たくさんの名器が製作されました。
クレモナのバイオリン製作家は、家族ごとに一派を成しており、その優れた技術は代々受け継がれてきました。「アマティ」「ストラディバリ」「ガルネリ」などの名前が最も有名です。
これらの名を持つバイオリンは、その当時から現代に至るまで、一流とよばれるバイオリニストに弾き継がれています。現在の有名なバイオリニストも、ほとんどの方がクレモナの名器を愛用しているのです。
クレモナの名器のなかでも特に有名なのは、「ストラディバリ」と「ガルネリ」でしょう。それぞれがタイプの異なる魅力を持っています。
ある研究書では、ストラディバリは『ラファエロの描く聖母マリアのように、甘くしなやかで、少し鼻にかかったような感じがする音色』、
一方のガルネリは『ミケランジェロのような力強さと激しさを持った、甘美で豊かな輝かしい音色』とあります。
一般的には、ストラディバリは“明るく繊細な音色”、ガルネリは“深くて力強い音色”といわれています。
どんなにクレモナのバイオリンが素晴らしいといっても、名器とよばれる楽器は大変高価で、一般の人では手に入れられませんでした。そこで、大量生産によるバイオリンの普及が始まったのです。こうしたバイオリンは、現在でもたくさん作られています。
世界では歴史の長いバイオリンですが、日本で弾かれるようになったのは明治以降です。今では世界で活躍する日本人のバイオリニストの方も大勢いらっしゃいます。また、バイオリンはクラシックだけでなく、他ジャンルの音楽にもよく使用されています。バイオリンは、日本でも身近な存在の楽器になったのだといえるでしょう。
バイオリンの歴史や背景などについて、本当に簡単にご紹介させていただきましたが、実際の歴史には、より興味深い事柄がたくさんあります。現在にも語り継がれている逸話や、楽器から推測する製作者の人柄や歴史など、枚挙にいとまがありません。
バイオリンには、その楽器としての魅力以外にも人を惹きつける不思議な力があるのかもしれませんね。